【科学的/徹底解説】バイオスティミュラントの開発とは?その潜在能力とは? 技術開発ディレクターが開発プロセスからその機能メカニズムまで

チュートリアル 更新日:


 

今回の記事では、YouTubeチャンネル「味の素グループアミノ酸肥料ch」で公開されている動画「【科学的/徹底解説】バイオスティミュラントの開発とは?その潜在能力とは? 技術開発ディレクターが開発プロセスからその機能メカニズムまで詳細に説明します。」の内容をテキスト化してご案内しています。

 



目次

    本日の講演のテーマは、「植物由来のバイオスティミュラントが持つ潜在能力を解放し、地域市場の需要に応える」というものです。

    この問題は、地域的なものからグローバルな問題へと日々拡大しつつあります。

    そのため、地域市場の需要だけでなく、特定の市場のニーズにフォーカスして話を進めていきたいと思います。

    アグリテクノ社について

    まず初めに、私の会社、アグリテクノについて少し紹介させてください。アグリテクノは2001年に設立されたスペインに本拠を置く国際企業で、主にバイオスティミュラントの開発と製造に注力しています。

    現在、我々は60ヶ国以上で事業を展開し、世界中で500以上の製品を登録しています。

    私たちのチームは、17の国籍のメンバーから成り立っており、各国のインポーターを通じて各国市場にアクセスし、肥料登録の支援、技術的な栽培施用アドバイス、製品とブランドのプロモーション、特定ニーズに応じた製品開発を行っています。

    また、配置された当社のエリアマネージャーを通じて、現地での提案やコンサルティングを行い、パートナー企業を支援しています。

    現在の農業が抱える課題について

    現在の農業は多くの課題に直面しています。

    世界人口の増加による食料需要の高まり、気候変動の影響、資源の利用可能性も限られていますし、地政学的な状況による農薬価格の高騰など、持続可能な方法で生産性を向上させる必要があります。

    また、土壌汚染という深刻な問題に対しても、耕作可能な土壌を回復するための努力が求められています。

    バイオスティミュラントは、これらの課題を克服するための重要なツールとなり得ます。

    バイオスティミュラントについてここでは詳しく説明するつもりはありませんが、施用後に期待できる効果について強調したいと思います。

    バイオスティミュラントは、栄養素の利用効率を向上させることが証明されており、非生物的ストレスへの耐性を強化し、収量やサイズ、果実の品質特性の向上に寄与します。

    また、土壌中に自然に存在する栄養素の利用可能性を高める効果もあります。

    バイオスティミュラントの本質的な複雑性を踏まえると、その成分や作用機序を理解するためには科学的アプローチが不可欠です。

    本日は、新たな原材料や化合物がバイオスティミュラントとしてどのような潜在能力を持つかを解明するために、私たちが行っている研究プロセスについて説明します。


    バイオスティミュラントの研究ついて

    研究は主に3つの異なる分野に焦点を当てています。

    第一に、異なる分析技術やメタボロミクスを用いて、その成分が何を含んでいるかを調査します。

    次に、トランスクリプトーム解析を用いてその作用機序を解析し、最後に、フェノタイピングを用いてその成分が植物にどのような影響を及ぼすかを評価します。

    ほとんどのバイオスティミュラントは自然由来で、多くの異なる化合物を含んでいます。主要な成分であるアミノ酸やビタミン、いくつかの有機酸は比較的容易に特定できますが、より深い分析により、植物内の特定のプロセスに関連する可能性のあるさまざまな化合物や代謝物を見つけることが可能です。

    バイオスティミュラントはその成分ではなく、その効果によって定義されます。したがって、成分の詳細な説明は省略し、トランスクリプトーム解析とフェノタイピングの分析に焦点を当てて進めます。

    それでは、これらの成分が植物にどのように機能するかを説明します。

    基本的には製品を植物に施用し、24時間後にRNAを抽出して、どの遺伝子が活性化または抑制されているかを分析します。

    この方法により、製品が誘発する代謝経路に関する洞察を得ることができます。

    そして、トランスクリプトーム解析で得られた結果を基に、実際の植物で製品を試して効果を確認する必要があります。

    フェノタイピングを使用して、成長室での制御された環境下で様々なパラメータ、例えばバイオマスやクロロフィル、ストレスマーカー、葉面積指数などを測定します。

    現在、私たちの研究施設では画像解析技術を取り入れています。

    これは植物の状態に関する情報を迅速かつ正確に収集する強力なツールであり、20以上の異なるパラメータを測定することができます。この技術は、従来の方法に比べて大幅な時間の節約を実現しています。

    異なる状況での実施例について

    これから紹介するのは、水ストレス、窒素利用効率、土壌微生物群の改善、ヒートストレスという4つの異なる状況でのこの方法論を実施した例です。

    まず最も重要なのは問題を正確に理解することです。

    問題が何であるか、植物がどのように反応しているかを把握する必要があります。

    (1) 水ストレス

    例えば、水の制限が原因で蒸散が増加すると、植物は細胞成長の減少、生産性の低下、葉面積の縮小など多くの有害な影響を受けます。

    これにはアブシジン酸の蓄積、蒸散の減少、ガス交換の低下、CO2の固定の停止、活性酸素種の生成などが含まれます。

    これは酸化ストレスを意味し、酸化ストレスは細胞の酸化の増加によって特徴づけられる現象です。

    酸化物質の過剰生産は組織の劣化を引き起こし、最終的には細胞の死につながります。

    植物は、このような状況に対処するために適応応答を発達させており、特に重要なのはグルタチオンS-トランスフェラーゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼといった酵素や、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール、カロテノイドといった抗酸化物質の生産です。

    これらの物質は酸化種を中和し、植物が酸化ストレスを克服するのを助けます。

    次に、私たちは製品を植物に施用した後、内部で何が起こっているかを確認します。

    この場合、トランスクリプトーム解析から、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼといった、酸化種の中和に関与する酵素の合成に関連する遺伝子が過剰発現していることが分かります。

    また、この原料は、膜の保護や水の輸送を改善するタンパク質の生産も刺激しています。

    "理論的には、この製品が水分ストレス緩和剤として機能する可能性があります。

    これを確認するため、土壌の水分を圃場の水分容量の半分に制限し、水分ストレスに対処する可能性がある製品を試しました。

    フェノタイピングでは、クロロフィルA、クロロフィルB、カロテノイドの増加が確認され、植物の光合成システムが改善していることが示されました。

    また、FRAP法(フラップほう)およびTEAC法(ティークほう)という2つの方法で測定された抗酸化能力も増加しています。

    製品を施用することで、植物はストレスに対する抗酸化反応を高め、コントロール群よりも優れた反応を示しています。

    バイオマスを評価すると、新鮮な地上部バイオマス、乾燥地上部バイオマス、新鮮地下部バイオマス、乾燥根バイオマスが、ストレスを受けたコントロール群と比較して増加していることが観察されました。

    これは植物がバイオスティミュラントに反応している証拠です。最後に、製品施用後に植物内の相対水分含量を測定しましたが、2つのバイオスティミュラントを使用した結果、処理されていないストレスを受けた植物よりも高い相対水分含量が得られました。」

    (2) 窒素利用効率

    次に、栄養効率、特に窒素利用効率に焦点を当ててみましょう。肥料の過剰使用は生産コストの増加や環境汚染を引き起こす問題です。窒素利用効率の改善は、生産能力の向上、コスト削減、環境への影響軽減に役立ちます。窒素利用効率は、利用可能な窒素単位あたりのバイオマス生産量で定義されます。最終的には、窒素の吸収と利用効率を改善することが目標です。

    このプロジェクトでは、新しい物質を施用し、窒素サイクルに関連する遺伝子、窒素吸収に関連する遺伝子、アンモニウム同化に関連する遺伝子、グルタミン輸送に関連する遺伝子、アミノ酸輸送に関連する遺伝子を特定しました。

    理論的には、これらの遺伝子の活性化により窒素利用効率が向上する可能性があります。次に、植物で実際に試してみましょう。実験は、植物に必要な窒素量の50%を制限した条件と最適条件で行われ、最適条件では、葉と根のバイオマスが増加しました。これは、製品がストレスのない状態で植物にうまく機能していることを示しています。

    制限条件下でも、葉の乾燥バイオマスにおける同様の効果が観察され、根の乾燥バイオマスレベルでは特に大幅な増加が見られました。これらのフェノタイピングの評価値から、製品が植物の窒素利用を改善していることが示されています。さらに、この試験で測定された別の重要な指標は窒素の状態です。ここで、最適条件下では硝酸態窒素がはるかに少なく、制限条件下ではほぼ同じレベルが観察されました。最適条件下で窒素がどこに消えたのかは明確な疑問です。これに答えるためには、窒素サイクル全体を詳しく見てみる必要があります。

    また、異なる酵素の酵素活性を測定しました。具体的には、硝酸還元酵素、グルタミン合成酵素、グルタミン脱水素酵素の3つの酵素で、これらの酵素活性は製品施用後に増加しました。この結果、最適条件と制限条件の両方で組織レベルのタンパク質濃度が増加しました。これらすべての情報を組み合わせた結果、制限条件下でのバイオマスの41%の増加と、新しい物質を使用した場合の窒素利用効率の最適条件下での61%の増加が記録されました。

    しかし、非常に興味深いことに、窒素利用率は大幅に増加している一方で、植物の窒素吸収は減少しています。これは植物が土壌中の利用可能な窒素が少なくとも、その需要を満たしている可能性があり、吸収の改善が必要ないことを示しています。ただし、これはまだ仮説に過ぎません。

    土壌微生物群の改善

    次に、プロバイオティクスについて考えてみましょう。この実験の場合、植物は使用しません。製品を土壌に施用し、その後の土壌微生物群にどのような変化が起こるかを分析します。プロバイオティクスは有益な微生物の発展を促進する有機化合物で、土壌中の栄養素と有機物の利用可能性を促進し、土壌の構造と肥沃度を改善します。これにより、微生物との相互作用を通じて植物の成長、発展、ストレス耐性が刺激されます。

    土壌の微生物群を刺激するための別の製品もあります。この製品を土壌に施用し、メタゲノム解析を行いました。土壌中のDNAを分析し、この技術を使用して、土壌中の異なる微生物の相対的な豊富さを特定し、定量化することが可能です。今回の実験では、放線菌類の増加が見られ、有機炭素に富む土壌に特徴的なプロテオバクテリアの増加も確認されました。プロテオバクテリアは土壌中の炭素、窒素、リン、カリウムなどの循環に関与します。

    さらに、この製品の施用後には、土壌の健康に重要なバチルス属の菌の増加も見られました。また、デヒドロゲナーゼ活性とカタラーゼ活性から生物肥沃度指数を算出することで、土壌中の酵素活性を測定しました。この生物学的肥沃度指数は12%増加しました。

    最終的に、このプロバイオティクスを使用することで、土壌中の有益な微生物群の発展を促進していることが理論化できます。同時に、これらの菌が異なる栄養素サイクルに関与しているため、土壌と植物の栄養条件を改善し、土壌の肥沃度を向上させるとともに、生物学的肥沃度指数も向上させています。

    ヒートストレス

    最後にご紹介する例はヒートストレスに関連しています。ヒートストレスは植物の栄養成長と生殖成長にマイナスの影響を与え、様々な器官の機能不全、果実の変色、病変を引き起こし、果実の成熟にも障害をもたらし、収量を減少させます。特に生殖成長時での影響は顕著で、雄性および雌性の生殖器官の形成に悪影響を及ぼし、花粉の発芽と花粉管の成長を抑制し、受精力の低下や自己受粉の妨害、受精後の花の枯死などを引き起こします。


    植物はヒートストレスに対して複数の応答を示します。一部は生理学的レベルで、細胞膜の安定性、植物の水分保持能力、光合成能力に関連し、また、分子レベルでは適応浸透物質の蓄積、酸化ストレスへの対応、抗酸化物質やヒートショックタンパク質の生合成などがあります。細胞膜は温度ストレスを最初に受ける部分で、膜の流動性の変化は温度変化に対する遺伝子の発現と影響において重要な役割を果たします。膜脂質がより流動的かつ透過性になることで、電解質の損失が生じます。

    生理学的レベルでは、温度の上昇が蒸散による脱水を引き起こし、光合成の効率が低下します。分子レベルの応答としては可溶性の糖、糖アルコール、プロリン、グリシンベタイン、三硫黄化合物などのオスモライトが蓄積され、ヒートショックタンパク質の生成に関連する遺伝子の発現が増加します。これらのタンパク質は分子シャペロンとして機能し、他のタンパク質を保護して修復し、温度ストレス中に細胞の機能を維持します。

    「製品を植物に施用し、トランスクリプトーム解析を行い、ヒートショックタンパク質の生成に関連する遺伝子を特定しました。これにより、理論上、この製品がヒートストレス緩和剤として機能する可能性を示唆しています。実験を行い、ストレスを誘発した後、バイオマスに関連するさまざまなパラメータを測定しました。この場合、ストレスを受けた植物と比較して、葉の新鮮重量、乾燥重量、根の乾燥重量、葉面積指数がすべて増加しました。これは植物が製品による影響に反応していることを示しています。」

    「分子レベルでは、プロリン含量も測定しました。今回の実験では、ストレスを受けているコントロール群と比較して、3種類の試験製品を使用した場合にプロリンの量が増えていることが確認されました。しかし、私はプロリンを少し扱いにくい指標だと考えています。その理由は、植物の成長が良好であるにもかかわらず、プロリンの量が減ることがあるからです。これは、異なる、作用機序、生物学的な作用の仕組みが関係しているからと考えられます。この例では、プロリンの増加が細胞を保護する作用と関連していますが、他の状況では、植物がストレスを受けていないためにプロリンを蓄積する必要がないのかもしれません。

    電解質漏出に関しても同様の結果が見られました。試験した3つの製品の中で1つは電解質の漏出が減少しましたが、残りの2つでは逆に漏出が増える結果が観察されました。        しかし、これらの製品を使った植物の成長に関する指標はどの製品も良好であることから、それぞれの製品が異なる方法や作用機序で効果を発揮していることがわかります。この実験では、ストレスを受けた植物と受けていない植物との間には、葉や根の状態において非常にはっきりとした違いが見られました。

    これらの研究はまだ製品開発の最初の段階ですが、将来的には市場で販売される製品を開発するための基礎となります。農家は通常、プロリンの量や電解質の漏出、遺伝子の活動といったことなどを測定するわけではありません。彼らが本当に求めているのは、製品を使用した後に投資した分に対して良いリターンが得られることです。作物の収量を増やすという一貫した効果を得るためには、この研究方法を用いることが最善と考えています。確かに、どの製品をどれだけ使うか、環境や農家の慣習によって結果は変わりますが、様々な作物に効果的で、その圃場の環境を考慮した最適な解決策・ソリューションを提案するのは技術スタッフの役割です。実際に圃場では、野菜でも果物でもより良い結果を得ています。実際の圃場では我々の製品を濃い目に散布することが多いので、その分結果も少し良くなるのです。

    【結論】

    最後に結論として、バイオスティミュラントを開発するためには科学的知見を利用することが欠かせません。問題点をしっかりと把握し、開発の進め方を決定することがとても重要です。イノベーションを速めるためには、大学や研究機関との連携が重要な役割を果たします。特定のニーズに対するソリューションを開発することが求められています。今日ご紹介した内容は、まだ製品開発の初期段階にあり、この後、得られたデータを基に、製品化、フィールドテスト、そして工業化に向けた多くの工程が必要です。

    本記事でご紹介した内容については「 【科学的/徹底解説】バイオスティミュラントの開発とは?その潜在能力とは? 技術開発ディレクターが開発プロセスからその機能メカニズムまで詳細に説明します。」こちらの動画で解説していますので、気になる方はこちらから動画をご視聴ください。

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