植物における栄養吸収、微量要素吸収の重要性と実践Vol.1(全4回)

チュートリアル 更新日:

 

当記事では、YouTubeチャンネル「味の素グループアミノ酸肥料ch」で公開されている動画「【科学的/徹底解説】農業におけるアミノサイエンスvol.2 キレート材としてのアミノ酸製品紹介 テクノケルCaB、テクノケル・アミノミックス スペイン技術者が科学的見地からの徹底解説」の内容をテキスト化してご案内しています。

 

これまでお伝えしてきたアミノ酸キレート剤の解説の中で、植物の成長に欠かせない栄養素である微量要素の存在に触れました。植物は複数の栄養素で構成されていますが、なかでも副次的多量栄養素と微量要素は主要栄養素(NPK)と比較すると必要量が少ないものの、植物の生育には不可欠な存在です。

今回からは、そのなかでも特に重要視されている、植物の成長に不可欠な副次的多量栄養素であるカルシウムと微量要素であるホウ素に注目した内容を全4回に渡ってお伝えします。カルシウムとホウ素の重要性を掘り下げ、2つの栄養素が植物成長にどのような役割を果たすのか、不足した場合に起きる成長プロセスへの影響と解決策、栄養管理やテクノケル製品の活用法についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。

それでは、カルシウムとホウ素について理解していきましょう。

目次

    カルシウムとホウ素の基礎知識と重要性

    植物を構成する栄養素が複数あるなかで、カルシウムとホウ素の2つの栄養素が植物生理と成長に不可欠である、とされる理由は何でしょうか。どちらの栄養素も主要栄養素ではないにもかかわらず重要視されるのは、カルシウムが細胞壁の構造と信号伝達に、ホウ素が細胞壁の強度と柔軟性、細胞間通信に関係しているからです。

    植物は通常、細胞分裂を繰り返しながら数千にも及ぶ細胞を形成し、大きく成長していきます。カルシウムは細胞壁を構成する必須栄養素であるため、植物全体で細胞分裂が起こるたびに多量のカルシウムが必要になることは想像がつくでしょう。同じくホウ素も細胞壁の形成には欠かせず、細胞壁の強度や柔軟性を高める役割があります。

    仮にカルシウムやホウ素が不足すると正常に細胞壁が形成されず、十分な水分や栄養素を吸収できないため、細胞分裂はストップします。結果的に、植物の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。花や葉、果実に症状が表れるため、収量の面でも大きく影響を受けるでしょう。

    カルシウムとホウ素は、植物成長において不可欠な栄養素なのです。

    栄養吸収の障壁となる問題点と解決策

    ここからはまず、カルシウムの吸収について注目します。カルシウムが不足すると細胞壁の形成に影響し、葉や果実に症状が現れます。ただ、一言で「カルシウム不足」といっても考えられる要因はさまざまで、土壌中のカルシウムが不足しているとは限りません。カルシウムの性質が影響している場合もあるのです。

    カルシウム不足になるには次のような要因が考えられます。

    • 根からの吸収量が少なく、先端の部位まで届いていない
    • 蒸散作用によって水分が蒸発してしまい、先端まで輸送できない

    植物が成長していくうえでなぜカルシウム不足が起きてしまうのか、植物全体に均等に運ぶための解決策はあるのか、カルシウムが吸収されてからの動きを追いながら考えてみましょう。

    吸収の際に起きる障壁

    土壌中のカルシウム濃度には問題がないにも関わらずカルシウム不足となる要因として考えられるのは、カルシウムの移動性の低さです。吸収されたカルシウムの動きが原因となり、二つの問題点が生じる可能性があります。

    1)根のカルシウム吸収量が少なく先端まで届かない

    ひとつめは、カルシウムが先端まで十分に届かないことです。通常、カルシウムはほかの栄養素と同様に根から吸収されます。水分と共に木部を通じ、下部から上部へと運ばれ、そのまま植物全体にカルシウムを供給できれば何の問題もありません。しかし、うまく運ばれない可能性があるのです。

    細胞は栄養素を取り込んで次々と新しい細胞を生成するため、大量のカルシウムを常に必要としています。それにより、カルシウムが細胞の近くを通るたびにどんどん吸収されてしまう状況が起こります。その結果、根から長い工程を経て葉先や果実に向かう頃にはカルシウムが残っておらず、わずかな量しか届かないこともあるのです。

    根がカルシウムを吸い上げても、吸収量が少なければ下部や中間部でカルシウムが枯渇してしまいます。カルシウム欠乏症の症状が先端にあらわれるのは、このためです。

    では、実際にカルシウム欠乏症の例を見てみましょう。次の写真をご覧ください。

    左側の白菜は、全体的に葉が成長しておらず、カルシウム欠乏の症状が顕著にあらわれています。カルシウムが葉先にまで十分に届いていないため、中心部の葉が成長せず、空洞ができてしまっています。同じく右側の白菜も中心部の葉が育っていません。

    このようなカルシウム欠乏の症状があらわれた場合、土壌中のカルシウム不足を疑うかもしれません。しかし、カルシウムの性質を考えると、そうとも限らないのです。

    問題の本質は、根から吸収されたカルシウムの輸送が偏ってしまい、先の器官まで適切に届いていない状況にあります。つまり、根がカルシウムを十分に吸収していない、もしくは他の細胞に吸収されることにより輸送スピードが遅くなっている、といった可能性があるのです。

    2)先端に届くまでに水分が蒸散し偏ってしまう

    ふたつめの問題点は、蒸散により水分とともにカルシウムが移動し偏ってしまうことです。この問題は、特に葉物野菜によく見られます。

    本来であれば、カルシウムは水に溶けることで根に吸収され、すべての葉へと運ばれます。しかし、カルシウムの輸送中に起きる蒸散作用によって、水分が別の部位へと移動してしまうことがあるのです。

    *蒸散作用:蒸散作用とは、植物の葉や茎の表面から水蒸気が大気中に放出される自然なプロセスです。このプロセス中、根から吸収された水(そして溶解したカルシウムも含む)が植物全体に運ばれますが、葉の表面から水が蒸発する際、水と共に移動するカルシウムが特定の部位に偏って集まりやすくなります。その結果、植物の上部や先端部分ではカルシウムが不足することがあり、成長や発達に必要な均一な栄養分配が妨げられます。

    先ほどと同じく白菜を例にします。左側の白菜の写真をご覧ください。

    根から吸収されたカルシウムは水分と一緒に師部を通り、それぞれの葉に運ばれます。しかし、葉の蒸散作用により上部より下部の葉の方が、カルシウム量が豊富になります。

    なぜなら、内側の葉元部分で蒸散した水分にカルシウムが含まれているからです。蒸発した水分とカルシウムは、本来運ばれていた葉から外へと移動してしまうため、下部の外側の葉に行けば行くほどカルシウム量が増えていきます。

    しかし、葉の上部、特に中心部の葉ではどうでしょうか。水分と共にカルシウムが蒸発したことにより、カルシウムが届くはずだった部位まで水分もカルシウムも運ばれてきません。下部や中間部とは違い、上部では水分の輸送がおこなわれていないのです。

    中心の葉の上部にまで届く水の量が極めて少ないため、それに伴いカルシウムの量も大幅に減少します。つまり、蒸散作用によってカルシウムの動きが左右されることにより、中心部の葉のカルシウムが不足し、成長に影響を及ぼしているとも考えられるのです。

    考えられる解決策

    カルシウムの移動性が低いために起こる先端のカルシウム不足問題を解決するには、根から遠い細胞は飢餓状態であると認識し、葉面散布によるカルシウム補給で対処する方法があります。

    カルシウム吸収における問題点は、カルシウムの移動性の低さと蒸散作用により、先端部位までカルシウムが行き渡らないことでした。根から遠い細胞には栄養素が届きにくい傾向にあることを知っておけば、植物が影響を受ける前に対処することもできます。

    カルシウムの欠乏を防ぐには、外部から葉面を通じたカルシウム補給が有効です。その際には、テクノケル製品のようなキレート剤の活用も検討ください。

    *キレート剤:前回までの記事で述べてきた通り、キレート剤とは、金属イオンやカルシウムなどの栄養素を有機分子で包み込むことで、その吸収率と利用効率を高める化学物質です。キレート化された栄養素は土壌中での固定化を避けられ、根からの吸収が容易になるため、植物が必要とする栄養素をより効率的に利用することが可能です。このメカニズムにより、特に移動性が低い栄養素の補給が改善され、根から遠い葉や果実まで均等に栄養が行き渡りやすくなります。

    キレート剤を施用し葉面散布することにより、葉の上部からでもカルシウムを吸収でき、結果として植物全体に届けることが可能です。葉から直接吸収できるのであれば、蒸散作用の影響を受けたり、根から運ばれてくるカルシウムを待ったりすることなく、上部にある細胞はどんどん分裂し大きく成長していきます。

    「テクノケルアミノCab」はアミノ酸でカルシウムをキレート化しているため、他のキレート剤に比べて栄養素の浸透率が高いという特徴があり、葉面からでも容易に細胞内へと浸透します。根からの吸収よりも、より早く、多くのカルシウムが届けられることにより、カルシウム不足に陥る可能性を減らすことができます。

    なお、育てる植物に対してカルシウムがどの程度必要となるのかを事前に知っておくと、適切な栄養管理がしやすく、安定した収量や品質を保つ目安となります。それによって収量の見込みが予測できるため、販売戦略も立てやすくなるでしょう。

    ひとつ例を挙げると、葉物野菜の代表格であるキャベツでは、植物全体が偏りなく成長するためには1トンあたり約3.5キロのカルシウムが必要です。この膨大な量からも、微量栄養素であるカルシウムがどれほど植物の成長にとって重要な栄養素であるかが理解できます。

    ただ、カルシウムは常に補給すれば良いというものでも、欠乏症状を確認した時だけ補給すれば良いというものでもありません。適切なタイミングでの補給が重要となりますが、こちらについては後述します。

    カルシウムの重要性と課題

    カルシウムの役割と問題点を理解した上で、さらにカルシウムの重要性と課題に焦点を当ててみましょう。カルシウムは副次的多量栄養素であり、細胞壁を形成するには欠かせない栄養素です。カルシウムが不足すれば、植物の成長にダイレクトに影響します。それゆえ、植物の健康と大きな成長のためには、植物全体に十分な量を運ばなければなりません。しかし、カルシウムは移動性が低く、下部の細胞に集中してしまい、先端にまで必要量が届けられないという課題があります。

    細胞壁の構造

    細胞壁の中心要素とされるカルシウムは、細胞壁の構成においてどんな役割を果たしているのでしょうか。その答えを知るためには、細胞壁の構造を理解する必要があります。まずは、細胞壁がどのような構造なのかを詳しく見ていきましょう。

    こちらは細胞と細胞壁を図にしたものです。

    植物の細胞壁は、乾燥重量で植物全体の約80〜85%と大部分を占めています。さらに、その細胞壁のほとんどは豊富なカルシウムにより形成されています。ただし、細胞壁の主成分は繊維状のセルロースであり、カルシウムそのものではありません。細胞壁はセルロースどうしの結合によりできており、それにはペクチンと呼ばれるセルロースどうしを結合させる物質、そしてカルシウムが必要となります。

    ペクチンとは細胞壁の水溶性成分の一つで接着剤のように機能します。細胞壁に弾力性や柔軟性を与える重要な役割を担っています。カルシウムは、ペクチン分子間で架橋イオンとして機能し、これによりペクチンが互いに強く結びつき、細胞壁の構造を安定化させるのに寄与します。この架橋作用によって、細胞壁はより強固で安定した構造を獲得します。

    そのため、カルシウムが不足するとペクチンが接着剤の役割を果たせず、細胞壁の成長の妨げや、細胞壁の弱体化に繋がる可能性があります。細胞壁が柔軟性を失い弱体化すると、結果的に細胞壁が分解されやすくなってしまうからです。細胞壁が正常でなくなれば細胞分裂にも影響し、植物の成長に支障をきたすことは容易に想像できます。

    したがって、植物全体の健全な成長と発達には、細胞壁に柔軟性と強固さをもたらすカルシウムが必須であり、十分な量の供給が不可欠となるのです。

    次に細胞分裂の仕組みを解説しましょう。カルシウムは植物の成長サイクルのなかでも、特に細胞分裂の段階で重要な役割を果たします。細胞が分裂するたびに新しく細胞壁が形成されるため、その過程でカルシウムが必要とされるからです。下の図をご覧ください。

    この写真はひとつの細胞が分裂している様子を写したものです。写真の中心にある細胞を見ると、すでに中心のとなる核が分裂しており、まさに新しい細胞壁が形成されようとしています。細胞が分裂すると、当然、細胞膜や内部の組織を守るために必然的に新たな細胞壁が形成され、そのたびにカルシウムが必要となるのです。

    細胞分裂は一度や二度では終わりません。たった一つの細胞から、数千にも及ぶ細胞へと増えていきます。そうなれば、細胞壁の形成のために大量のカルシウムが必要となるのは当然のことです。

    植物成長への影響

    カルシウムは植物の成長サイクルにおいて、特に細胞分裂の段階で重要な役割を果たします。細胞が分裂する際に、新しい細胞壁が形成される必要があり、その過程でカルシウムが必要になるからです。細胞壁の柔軟性と強さを保つには、カルシウムの存在が欠かせないのです。

    とはいえ、カルシウムが必要となるタイミングは細胞分裂のときだけではありません。細胞が水分を得て急激に膨張した際にも、カルシウムが必要となります。

    膨張した際の細胞壁の構造を詳しく見てみましょう。

    縦に細くいくつも伸びているのがセルロース繊維で、その間にある緑でクネクネとしたものがペクチンです。

    左の図の細胞壁に比べて、中央の図ではセルロース繊維が水分であるH2を吸収し、膨張しているのがわかります。しかし、セルロースを結びつける役割であるペクチンの大きさはそのままです。このままでは細胞壁が弱くなってしまうため、細胞の大きさに耐えるよう細胞壁も合わせなければならず、ペクチンも成長しなくてはなりません。ここで必要とされるのがカルシウムなのです。

    もしカルシウムが不足していると細胞壁はこのまま柔軟性を失い、膨張に耐えられずに細胞壁が破壊されてしまいます。そうなれば植物の成長にも影響し、果実のひび割れといった症状を引き起こします。

    つまり、カルシウムは単に細胞壁の形成に必要なだけではなく、細胞の膨張による細胞壁の拡張のためにも必要となるのです。

    移動性の問題

    植物成長への影響となるのは、カルシウムの移動性が低いことで起こる栄養分配の偏りです。先ほども述べたように、カルシウムは水と共に植物内の核部位に運ばれますが、下部の細胞に偏る傾向があります。結果的に上部や先端部分がカルシウム不足となり、葉の変色や成長不良、果実の尻ぐされ病といったカルシウム欠乏症の引き金となります。

    カルシウムが下部に集中してしまう要因として考えられるのは、根の吸収率の低さや蒸散作用などによりカルシウムが運ばれていないためです。根から吸収されたカルシウムが先端にたどり着く前に吸収されてしまい、本来届くはずであった細胞にカルシウムが届かず、細胞分裂の際に細胞壁が正常に形成されなくなります。そうなれば、植物にとってダメージとなり、成長に支障をきたしてしまうのです。

    カルシウム不足による植物成長への影響は大きく、将来的に品質や収量の低下も免れません。したがって、カルシウムが不足しないよう栄養状態を管理し、適切に補給する必要があるのです。

    栄養管理

    植物全体を通してカルシウム量が均等になるのが望ましい状態です。だからといって、常日頃からカルシウムをたっぷり補給すれば良いわけではありません。カルシウムを効果的かつ効率よく、植物全体に吸収させるには適切なタイミングでの葉面散布が理想的です。

    果実であるトマトを例に考えてみましょう。トマトが着果してから成熟するまでには、細胞分裂期、細胞拡大期、成熟期と3つに分類されます。一般的に、細胞分裂期の段階は着果から2週間ほど続きます。植物にカルシウムを与えるのに最適な時期は、細胞分裂が活発におこなわれている時期、すなわち着果から5日〜40日間内の10日〜14日間程度です。

    この期間にカルシウムを供給できれば十分なカルシウムを蓄えることが可能です。それにより細胞の分裂と肥大化が期待でき、果実の品質や収量向上に繋がります。効果的かつ適切にカルシウムを与えるためには、植物の成長に合わせて葉面散布の計画を立てることが重要です。

    では、カルシウム供給に最も適したタイミングはいつなのでしょうか。カルシウムの大部分は細胞分裂期と細胞肥大期の最初の一週間、特に初めの数日間に植物によって吸収されます。そのため、カルシウムの葉面散布に最も適した時期は、細胞分裂期と細胞肥大期の初期、となります。ただし、果実内の細胞分裂は停止しても、外皮は成熟期まで細胞分裂し続けます。そのため、皮の破裂を防ぐために、植物の状況によっては成熟期にも散布した方が良い場合もあります。

    基本的には、初回は細胞分裂期に、二回めは細胞肥大期の初期にカルシウムを施用するのが良いでしょう。果実内の細胞分裂にも対応し、成熟期までの十分な量のカルシウムが確保できます。

    まとめ

    今回は副次的多量栄養素であるカルシウムに焦点あて、カルシウムが植物に与える影響と問題点について解説しました。

    カルシウムは細胞壁の形成に欠かせない栄養素で、ペクチンとともに細胞壁の強さや柔軟さに関わる重要な役割を担っています。通常は根から水分と一緒に吸収され各所に運ばれますが、移動性の低さにより根から遠い部位にまでたどり着かず、葉や花、果実がカルシウム不足に陥る可能性があります。その結果、カルシウム欠乏症を発症してしまい、植物の健康的な成長への妨げとなるのは間違いありません。

    カルシウム不足を避けるには、細胞分裂期と細胞肥大期の2度にわたっての葉面散布が理想的です。その際には、葉面散布に効果的なアミノ酸キレート剤の活用も検討ください。効率的で素早く、かつ広範囲での吸収が期待できます。

    次回Vol.2ではホウ素に焦点を当てます。カルシウムと同じく植物成長に欠かせないとされるホウ素が、細胞壁でどんな役割を果たしているのか、ホウ素が不足すると植物の成長にどのような影響を与えるのかについて詳しく解説します。

     

     

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