植物の⽣産性を⾼める秘訣:テカミンブリックスの科学 Vol.2(全3回)

チュートリアル 更新日:

 

当記事では、YouTubeチャンネル「味の素グループアミノ酸肥料ch」で公開されている動画「【科学的/徹底解説】Tecamin Brixにはどういった効果があるのか?農業技術の専門家が科学的に解説します」の内容をテキスト化してご案内しています。

 

前回は、テカミンブリックスはどのようなバイオスティミュラントなのか、主要成分ごとの機能や効果について解説しました。

Vol.2となる今回は、テカミンブリックスが果物の収穫促進にどのように貢献するのか、具体的な科学的メカニズムを通じて解説し、その作用原理を明らかにします。 

テカミンブリックス 

目次

    テカミンブリックスの作⽤原理

    テカミンブリックスを植物に与えることで、植物内ではさまざまな生理的プロセスが促進されます。テカミンブリックスが果物の収穫促進、色づき、糖度向上にどのように寄与するのか、詳しく見ていきましょう。

     

    テカミンブリックス 

    テカミンブリックスの製品情報はこちら

    収穫促進への貢献

    テカミンブリックスは、果物の収穫をより効率的に進めるために開発されたバイオスティミュラントです。収穫の2つの重要な指標である果物の着色と糖度に直接影響を与え、収穫時期を早めます。テカミンブリックスは、果物の収穫を促進するために複数の生理的プロセスに作用します。

    テカミンブリックスを散布すると、果実は適切な色合いと適切な糖度に達し、それによって収穫時期を前倒しすることが可能になります。栽培条件や果実の種類によっても異なりますが、収穫時期を早められる点は、テカミンブリックスの大きな効果のひとつです。

    テカミンブリックスに含まれている5つの主要成分であるカリウム、ホウ素、海藻エキス、メチオニン、多糖類がどのように果物の成長と収穫に貢献しているかについてはVol.1で紹介しました。今回は、以下の生理的プロセスに注目します。

    • エチレンガスの生成
    • 葉緑素の減少と色づき
    • 糖度の向上
    • 光合成の促進

    それぞれのプロセスがどのように作用するのか、詳しく解説していきましょう。 

    テカミンブリックス 

    テカミンブリックスで果物の収穫を促進する

    エチレンガスの⽣成

    テカミンブリックスに含まれるメチオニンはエチレンの前駆体として機能し、エチレンの生成には重要な役割を果たします。具体的には、メチオニンは最初に1-アミノシクロプロパン-1-カルボキシル酸(ACC)へと変換され、エチレンが生成されます。その後、ACCオキシダーゼという酵素の作用によってエチレンガスが生成されます。エチレンは、果物の成熟プロセスにおいて重要な植物ホルモンで、「成熟ホルモン」や「老化ホルモン」などの別名もあり、成熟促進、色づき、糖度向上など多岐にわたる影響を果物に与えます。このプロセスによって、エチレンガスが発生し、果実の成熟が促されます。

    エチレンガスは、その果物自身だけでなく、近くにある野菜や果物にも影響を与えます。熟していないキウイをリンゴと同じ袋に入れておくと、キウイの成熟が進み柔らかくなる現象が見られます。これはリンゴが発生させたエチレンガスがキウイに作用した結果です。

    テカミンブリックスを使⽤することで、メチオニンからエチレンへの変換が進み、エチレンガスの⽣成が促進され、果物の成熟が加速されます。エチレンガスは、果実を色づけ、柔らかくし、糖度を向上させるなどの働きがあります。

    作物の種類によって、エチレンの生成量やエチレンに対する感受性はそれぞれ異なります。エチレンに対する感受性が高い作物は成熟が進みやすいため、より早い段階での収穫が必要になる場合があります。このような作物に対しては、メチオニンの添加を控えるなどの調整が必要です。 

    テカミンブリックス

     テカミンブリックスで果物の成熟を促進する

    葉緑素の減少と⾊づき

    テカミンブリックスは、葉緑素の減少を促すことで、果物の色づきを促進します。葉緑素(クロロフィル)は、植物の細胞内の葉緑体にあり、緑色をしています。成熟していない果物が緑色をしているのは葉緑素によるものです。そのため、葉緑素の減少は果物の色の変化に直接影響します。

    果実の色づきを促進するプロセスには2つの段階があります。最初の段階は葉緑素を減らすことです。なぜなら、葉緑素の緑色が他の色素を覆い隠してしまっているからです。実際には、その果実はすでにオレンジ色や黄色に変化している可能性がありますが、葉緑素が多いとオレンジ色や黄色は見えづらくなります。そのため、この葉緑素を減少、消滅させて、果物の最終的な成熟色への変化を促します。

    葉緑素の減少は、成熟過程で果物の色変化を促進する重要なプロセスです。このプロセスのキーとなるのが、果実内の糖分、特にグルコースの役割です。グルコースは光合成によって生成され、通常はエネルギー源として利用されますが、その量が過剰になると植物の細胞はストレスを感じ、葉緑素の分解を始めます。この理由は、グルコースが過剰に累積すると、細胞内での酸化ストレスが増加し、植物はこのストレスを軽減するために葉緑素を分解し、エネルギー消費を調整しようとします。結果として、葉緑素が減少することで、隠れていた他の色素(カロテノイドやアントシアニンなど)が現れ、果実の色づきが進みます。つまり、色を形成するためには葉緑素の分解が必要であり、グルコースの過剰はそのプロセスを促進します。細胞内の糖分が多いほど、葉緑素の量は減少します。これは、葉緑素を減少させることで色づきを早められるということを意味します。

    葉緑素を消滅させた後に、果実の色づきを促進するプロセスの2つ目の段階である色素の形成が続きます。色素の形成は、主にエチレンとアブシジン酸によって制御されます。エチレンは、テカミンブリックスに含まれているメチオニンから生成される植物ホルモンです。

    果物の色を決定するのに重要な色素は、カロテノイドとアントシアニンです。カロテノイドは、グリセルアルデヒド3ーリン酸(G3P)とピルビン酸という2つの物質から合成されます。カロテノイドを形成するためには、これら2つの物質に加えて12種類の酵素が必要とされます。そのため、これらの酵素が適切に機能することが、カロテノイドの合成において非常に重要です。G3Pは、光合成のカルビンサイクルから供給されます。カルビンサイクルは、光合成における反応のひとつで、グルコースを生成するサイクルです。つまり、もし果物に鮮やかな色を与えたい場合、G3Pが必要であり、G3Pを増やすためには光合成の活性を高める必要があるということです。

    一方、ピルビン酸はグルコースから生成されます。グルコースもまた光合成の産物です。したがって、ピルビン酸を増やしたい場合も、光合成を促進することが鍵となります。グルコースは、特定の反応を経てピルビン酸へと変換されるのです。以上のことから、色の形成においても光合成が最も重要なプロセスであることは明らかです。

    一方で、アントシアニンはフェニルアラニンというアミノ酸から生成されます。フェニルアラニンが不足している場合、アントシアニンの生成ができません。つまり、アントシアニンが形成されるためには、フェニルアラニンが必要不可欠であるわけです。 

    テカミンブリックス 

    テカミンブリックスで果物の色づきを促進する

    糖度の向上

    テカミンブリックスに含まれるサッカライド(糖類)は、果物内の糖度を直接的に向上させることが可能です。テカミンブリックスの使用により植物に供給される糖類は、植物が光合成で生成する糖類を補助する役割を持っています。

    具体的には、植物が光合成により生産する単糖や二糖が果実やその他の組織に蓄積される過程で、多糖類がこれらの糖の利用効率を高めることで、果実の糖度を向上させます。供給される糖類は植物体内での糖の代謝を促進するため、果実はより多くの糖を蓄積し甘みを増加させます。これにより、果実に含まれる糖は量が増えるだけでなく質的にも向上し、作物の市場価値も高まります。

    また、テカミンブリックスに含まれるカリウムと海藻エキスは光合成プロセスを強化します。カリウムは、特にルビスコ(リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ)という重要な光合成酵素の活性を高める役割を持ちます。ルビスコは、光合成中に大気中の二酸化炭素を固定するための主要な酵素であり、カリウムはこの酵素の活性サイトにおける二酸化炭素とリブロース-1,5-ビスリン酸の結合を促進し、光合成効率を向上させます。このように、カリウムは光合成プロセスを直接的にサポートし、植物がより効率的に光合成を行うことを助けます。

    海藻エキスは、植物内の自然な防御システムを強化することで、ストレス環境下でも光合成ができるようにします。これらの成分は、光合成によって植物自身が糖を生成するのを助けるため、結果的により多くの糖が生成されます。これにより果物の自然な糖度が向上し、より甘い味わいが実現します。

    ホウ素は光合成に関わる別の重要な役割を担います。ホウ素は、植物細胞内の糖輸送を助ける酵素の構造と機能を維持することにより間接的に光合成を支援します。具体的には、ホウ素はセルロース合成酵素の活性化に寄与し、これが植物細胞壁の整合性と機能を保持するため、光合成産物である糖類の輸送と分配が効率的に行われるようになります。

    植物の内部に糖分を蓄積するには、ホウ素によって増加する酵素やタンパク質が必要です。つまり、ホウ素は糖分の蓄積に非常に重要です。以前、サツマイモのテカミンブリックスと糖の蓄積について質問された際、私は別の戦略があると答えました。それは、ファーティグレインフォリアーを散布することで、植物がより多くの糖を生産するように促すことです。葉で生産された糖を輸送し、ホウ素を使用してサツマイモの中に浸透させるのです。

    問題がカリウムの不足ではなくホウ素の不足であることがよく見られます。ホウ素は不足している時にだけ作用するのではなく、植物に糖輸送体をより多く生成させることで、果実内への糖の浸透を直接的に増加させます。つまり、カリウムを増やしたとしても、必ずしも果実内の糖分が増えるわけではありませんが、ホウ素は糖の蓄積を確実に増加させます。その理由は、ホウ素の量が増えると糖輸送体の数も増えるからです。

    少し複雑ですが、糖分を増やしたい時にはホウ素を与えるのが最良の戦略と言えるでしょう。テンサイ、リンゴ、サトウキビ、ブドウ、パイナップル、バナナ、プチトマトにホウ素を使用した例は多数存在します。ホウ素が成熟を早めるだけでなく、貯蔵器官の糖度・糖量を増加させる事例は数多くあります。

    テカミンブリックス

    テカミンブリックスで果物の糖度を上げる

    光合成の促進

    光合成は、植物内の葉緑素が太陽光のエネルギーを利用し、二酸化炭素と水を反応させて酸素と糖を作り出す反応です。テカミンブリックスの成分は、光合成の効率を高めることで、果物の糖度向上に間接的に貢献します。光合成の活性が高まることで、植物はより多くの糖を生成し、これが果物の糖度向上につながります。

    収穫物である果実や根部などの貯蔵器官における糖の蓄積は、糖の供給量に大きく依存します。そのため、糖度を上げたい場合は、植物により多くの糖分を生成させることが必要になります。これを実現するためには、光合成のプロセスを促進させる必要があります。

    植物がより多くの糖を生産しようとするほど、それらを蓄積しようとします。この過程において、果実が十分に糖を蓄積していない場合、十分に成長することができません。つまり、果実の成長は糖の量に密接に関連しています。そして、この糖は光合成によって生成されるのです。

    テカミンブリックスに含まれる成分の多くは、光合成の効率を高める働きを持っています。

    カリウムは、光合成の速度の調節に関わる酵素の活性化を助け、光合成プロセスを支えています。

    ホウ素は、光合成を効率的に行うのに重要な役割を持っています。光合成により作られる糖はグルコースですが、フルクトースに変換され、フルクトースがグルコースと合わさってスクロースになります。この変換には2つの酵素が活動し、その活性化と形成にはホウ素が必要とされます。植物にホウ素が不足していると、光合成を効率的に行えません。植物にホウ素を供給すると、植物はより多くの酵素を生成するようになり、結果としてより多くのスクロースが生成され、輸送されるようになります。

    海藻エキスは植物内の自然な防御システムを強化し、ストレスのある環境において植物の成長を促します。植物の耐性を上げ、ストレス条件下でも光合成ができるようにサポートします。

    光合成は、植物が生きていくのに最も重要なプロセスであるとともに、糖度の高い果実の成長にも大きな影響を持っています。テカミンブリックスは、複数の成分で光合成を促進し、果物の品質向上に貢献しています。 

    テカミンブリックス

     テカミンブリックスで果物の光合成を促進する

    総合的な作⽤

    テカミンブリックスに含まれている複合的な成分は、植物の生理活動を総合的に改善し、収穫の質と量の向上を促進します。これまでに見てきたエチレンガスの生成促進、葉緑素の減少、糖度の向上、光合成の効率向上など、それぞれのプロセスが相互に作用し、収穫期の早期化、果実の品質向上に貢献します。

    テカミンブリックス

    テカミンブリックスを試してみる

    まとめ

    今回は、テカミンブリックスが果物の収穫促進にどのように貢献するのか、その科学的プロセスの側面から詳しく解説しました。

    テカミンブリックスは、さまざまな生理的プロセスに作用し、果物の収穫を促進します。果物の品質には果実の色づきや糖度が大きく影響しており、テカミンブリックスの使用はこれらに作用し、収穫促進に貢献します。

    テカミンブリックスに含まれるメチオニンはエチレンガスとなり、果物の成熟を促します。エチレンガスは果実の色を進め、果肉を柔らかく、甘く変化させるため、果物の成熟には欠かせない植物ホルモンです。

    熟す前の果実の色を覆っている緑色の葉緑素は、テカミンブリックスを与えることで減少します。葉緑素が減少すると、覆われて見えにくくなっていた果物の黄色やオレンジ色が出現し、成熟した果物の色になっていきます。

    テカミンブリックスに含まれる複数の成分は、光合成のプロセスをサポートしており、光合成の効率を高めることで果物の糖度向上に貢献しています。植物が糖を生産していなければ果実の糖度を上げることはできないため、植物自身が糖を作り出す光合成のプロセスを強化することは最も重要です。

    テカミンブリックスは、このように複数の生理的プロセスに作用することで、植物の生理活動を総合的に改善しています。それぞれのプロセスが互いに影響し合い、果物の品質向上につながっています。

    次回は、テカミンブリックスの効果について、トマトやスイカでの事例を交えながら詳しく見ていきます。さらに、適切な使用方法についても紹介します。

     【次回Vol.3のリンクはこちら ↓ 】

     植物の⽣産性を⾼める秘訣:テカミンブリックスの科学Vol.3(全3回) (agritecno-japan.com)

     【Vol.1のリンクはこちら ↓ 】

    植物の⽣産性を⾼める秘訣:テカミンブリックスの科学 Vol.1(全3回) (agritecno-japan.com)

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