湿気の多い季節に注意!「べと病」の発生原因と対策

基礎知識 更新日:

【この記事で紹介されるバイオスティミュラント】
 



目次

    ~葉に広がる黄ばみは、作物からのSOSかもしれません~

    春から梅雨、そして秋雨の季節。気温の上昇とともに湿度も高くなり、作物の生育と同時に病害のリスクも高まってきます。中でも注意したいのが「べと病」。

    見た目は初期症状が地味でも、進行が非常に速く、気づいたときには葉全体が枯れ、収量や品質に大きな打撃を与える危険性があります。本記事では、べと病の症状・原因・発生メカニズムから、予防・対策・有効資材まで、実践的かつ深掘りしてご紹介します。

    べと病とは?

    べと病は、卵菌類という微生物によって引き起こされる病害で、糸状菌(いわゆるカビ)に近い存在ですが、 現在では真正菌(真菌)とは異なる分類群に属する原生生物の一部とされています。厳密には異なる分類に属しています。この病原体は、主に葉の気孔から侵入し、葉の内部で増殖を開始。やがて胞子を形成して空気中や水を介し、周囲の株へと感染を広げていきます。とくに厄介なのが、「べと病」という名前は共通でも、作物ごとに原因菌が異なるという点です。

    • たとえば、レタスでは「ブレミア・ラクトゥカエ」

    • キュウリでは「シュードペロノスポラ・キューベンシス」

    といったように、同じような症状でも、病原体の種類が異なります。つまり、見た目の症状が似ていても、適切な防除薬剤や資材の選定は作物ごとに変える必要があるのです。そのため、現場では「症状だけでなく、対象作物に合った対処法をとる」ことが非常に重要になります。

    症状の進行と見極めポイント

    べと病のやっかいな点は、初期症状が目立ちにくく、発見が遅れがちなことです。しかし、症状のサインを早期に見極めることで、感染拡大を防ぐことが可能になります。以下が、べと病に特有の症状の進行段階です

    ▷ 初期段階

    • 葉の表面に淡黄色のぼやけた斑点が現れます。

        ※輪郭が不明瞭で見逃されやすい

    • 葉の裏面には、灰色〜灰白色のカビ状の胞子が発生


    ▷ 進行段階

    • 斑点は次第に淡褐色に変化し、葉脈に沿って広がる

    • 病斑が黄褐色から灰白色へ変化しながら拡大

    • 葉の形状を縁取るような「ステンドグラス状」の模様が特徴的

    ▷ 深刻な段階

    • 下葉から上葉へと徐々に上がるように感染拡大

    • 最終的には葉全体が枯れ込み、光合成機能を失う

    • 放置すれば株全体の生育が著しく阻害され、最悪の場合枯死

     

    また、この病害は「1株の感染から全体へと一気に広がる」特性があるため、“1枚の葉”の変化を見逃さない観察力が求められます。べと病の特徴を知っていれば、斑点の色・形・広がり方から早期に気づくことが可能です。

    “気づいたときには広がっていた”を防ぐために、日々の観察が最大の防御手段となります。

    発生しやすい条件

    発生しやすい作物

    べと病は、特定の作物に発生しやすい傾向があります。
    特に以下のような野菜では注意が必要です。

    キュウリ、カボチャ、スイカ、メロン、ゴーヤー(ニガウリ)、ヘチマ等のウリ科の野菜。

    キャベツ、ダイコン、カブ、ハクサイ、ブロッコリー、コマツナ等のアブラナ科。

    発生を助長する栽培環境

    べと病は「環境病」とも言える側面があり、以下のような管理不備が大きく影響します:

    • 密植:株間が狭いと風通しが悪くなり、葉が乾きにくい

    • 排水不良:地面に水がたまりやすく、根の健康にも悪影響

    • 過剰施肥(特に窒素):過繁茂により葉が重なり、湿度がこもりやすくなる

    • 肥料切れ:草勢が弱まり、病気に対する防御力が低下

    • 連作障害:土壌中に病原菌が残存しやすくなる

    発生しやすい環境と時期

    べと病が発生しやすいのは、以下のような条件がそろったときです

    • 気温20〜24℃

    • 湿度が高く、葉が濡れたままになる状況

    • 雨の多い時期(梅雨・秋雨)や、ハウス内の結露・換気不足

    • 密植による風通しの悪さ

    • 窒素の過剰施肥による過繁茂

    • 草勢の低下や肥料切れ

    予防と対策のポイント



    ①環境対策:湿気と密植を断つ

    べと病の発生を未然に防ぐ最大の鍵は、「葉が濡れにくく、乾きやすい環境を整えること」です。病原菌は、湿潤な状態で葉の気孔から侵入するため、空気と光がしっかり循環する圃場設計が欠かせません。

    ▷ 密植を避けて、風通しを確保

    • 株間を広く取り、風が抜ける空間を確保します

    • 特にウリ科やアブラナ科は繁茂しやすいため、葉が重なり合わないよう意識的に誘引・剪定を行いましょう

    ▷ 排水性を高める

    • べと病は水がたまる場所で発生しやすいため、排水のよい畝立てや暗渠排水の導入が有効です

    • 圃場の低湿部には水がたまらないように排水溝を整備し、雨天後のぬかるみを防ぎます

    ▷ ハウス栽培では「結露対策」と「換気」が重要

    • ハウス内は湿度がこもりやすく、夜間〜早朝の結露が葉を濡らす原因に

    • 夜明け前にタイマーで換気窓を開けるなどの事前対応が有効です

    • サイドビニールを部分的に開放することで、自然換気を促すことも効果的です

    ▷ 敷きわら・マルチの活用

    • 雨天時や潅水後に起こる泥はねを防止することで、病原菌の葉面付着リスクを減らします

    • 黒マルチは地温保持効果もあり、根の健全性も高まるため、総合的な病害リスク低下に貢献します


    ▷ 連作の回避

    • 同じ圃場で同じ作物を連作すると、土壌中に病原菌の胞子が残留し、翌年以降の感染源に

    • 輪作を組み、できれば1〜2年おきに作物を切り替えることが望ましいです

    環境整備は、薬剤散布以上に“べと病を寄せつけない土台”となる対策です。葉が濡れない・風が通る・菌を残さない。この3点を満たすことが、予防の第一歩です。

     

    ②肥料設計の調整

    肥料設計は、病気に対する“作物の体力”を左右する重要な要素です。特にべと病の発生には、窒素の過剰施肥や、草勢の低下が大きく影響します。


    ▷ 窒素過多は「過繁茂」を招き、病気に弱い株に

    • 窒素を与えすぎると、葉が過剰に茂り株内が過湿・蒸れやすくなる

    • また、軟弱に徒長した葉は表皮が薄く、病原菌の侵入を許しやすくなる
      ※過繁茂による通気性の悪化は、ハウス栽培では特に深刻です。

    ▷ 肥料不足も要注意

    • 反対に、肥料切れになると草勢が衰え、病気への抵抗力が極端に低下

    • 特に中盤以降の生育期に肥料が切れると、光合成が維持できず、感染拡大の引き金に

     

    ▷ バランス重視で微量要素まで管理を

    窒素・リン酸・カリだけでなく、カルシウムやホウ素などの微量要素の欠乏により植物が弱ることで、べと病などへの感染リスクが高まる可能性があります。

    ● カルシウムが不足すると…

    細胞壁の強度が低下し、物理的に病原菌の侵入を受けやすくなる

    ● ホウ素が不足すると…

    新葉の生長点が不安定になり、葉面構造が弱くなる

     

    ▷ ベースは「作物別」「時期別」の最適設計

    • 作物ごとの施肥基準に基づき、「初期の根張り促進 → 中盤の草勢維持 → 後半の品質向上」まで、段階的に肥料設計を考える

    • リーフ分析や土壌診断を行えば、精度の高い肥培管理が可能になります

    病気の出やすい条件を「つくってしまう」のは、日々の施肥の積み重ねです。べと病を寄せつけないためには、“多すぎず・少なすぎず・偏りなく”という基本を守ることが重要です。

     

    ③農薬の予防散布

    べと病の防除において、農薬の活用は非常に有効な手段です。ただし、「いつ・何を・どう使うか」を誤ると、十分な効果が得られないどころか、耐性菌の発生を招いてしまうリスクもあります。

    ▷ 発病前の“予防散布”が基本

    • べと病は、症状が見えてからでは薬剤効果が限定的になるため、発病リスクが高まる気象条件の前に散布しておくことが鉄則です

    • 梅雨や秋雨の入り口など、長雨・曇天・高湿度が続くタイミングは、予防の好機です

    ▷ 散布のコツは「葉の裏面」にも丁寧に

    • 病原菌は、葉の気孔(とくに裏面)から侵入するため、表面だけでなく裏面まで薬剤が届くように散布します

    • 展着剤を併用し、薬剤の付着性と広がりを高めることも有効です

    ▷ 有効な薬剤の種類と性質

    べと病向けの農薬には、以下のような特性を持つものが多く使用されます:

    • 浸透性(浸達性):葉の内部に浸み込んで病原菌を抑制

    • 耐雨性:散布後の降雨でも薬効が持続しやすい

    • 残効性:一定期間効果が継続する

    ※登録薬剤の中には、作物別に適応が限定されているものもあるため、ラベル記載を必ず確認しましょう。

     

    ▷ ローテーション防除で耐性菌対策

    同じ系統の薬剤を繰り返し使うと、病原菌が耐性を獲得する恐れがあります。 薬剤には、病原体の増殖を止める“仕組み”がそれぞれ異なるため、同じ作用機構の薬剤を連用すると耐性菌が発生するリスクが高くなります。
    そのため、「作用点が異なる農薬をローテーションで使う」ことが基本です。

    「予防効果のある薬剤」と「治療効果を持つ薬剤」を組み合わせるのもひとつの手です。

    予防剤は菌の侵入を防ぐタイプ、治療剤は感染後に菌の増殖を抑えるタイプです。

    農薬を使っていると、「前に効いた薬なのに、今回は効きが悪い気がする…」そんな経験はありませんか?実はそれ、病原菌が薬に慣れてしまっている(=耐性がついている)可能性があるのです。

    これは、風邪薬をずっと同じものばかり飲んでいると、効きにくくなるのと同じような現象です。このような“効かなくなるリスク”を防ぐために、農薬は「同じタイプを続けて使わないこと」が大原則です。ここで役立つのが、「FRACコード」という仕組みです。

     

    FRACコードってなに?

    FRACコード(Fungicide Resistance Action Committee code)は、その農薬がどんな仕組み(作用機構)で病原菌に効くかを示した分類番号です。

    お店で売っている農薬のラベルに「FRACコード:11」や「FRAC:3」などと書かれていることがありますが、これはまさにその農薬が「どのグループに属しているか」を表しています。つまり…

    • FRACコードが同じ薬は、同じ仕組みで効く=連続使用はNG

    • FRACコードが違う薬は、違う仕組みで効く=交互に使えばOK

    という使い分けの目安になるのです。

     

    使い方のイメージ

    たとえば…

    • 1回目にFRAC【11】(アゾキシストロビン)を使ったら

    • 2回目はFRAC【3】(テブコナゾール)など、違う番号の農薬に切り替える

    これが「ローテーション防除」と呼ばれる、病気を賢く防ぐテクニックです。連続で同じ番号を使わないようにするだけで、耐性菌のリスクを大きく減らすことができます。

     

    よく使われるFRACコードと特徴(家庭菜園・露地栽培向け)

    FRACコード

    作用機構の概要

    主な薬剤の種類・例

    特徴

    M群(M1, M3, M5)

    多作用点型(接触型・古典的)

    ボルドー液、マンゼブ、石灰硫黄合剤など

    耐性が出にくい。葉の表面にとどまり予防中心。

    3

    ステロール生合成阻害(DMI)

    テブコナゾール、ミクロブタニルなど

    広く効くが連用注意。作用点が一つで耐性化しやすい。

    7

    コハク酸脱水素酵素阻害(SDHI)

    フルキサピロキサド、ボスカリドなど

    予防と治療に有効。耐性リスクが高いグループ。

    11

    ストロビルリン系(QoI)

    アゾキシストロビン、クレソキシムメチルなど

    非常に広く使われているが、耐性化しやすい。予防中心。

    33

    有機リン・リン酸塩系

    ホスエチルアルミニウム(例:ホスホナト)

    吸収移行型。病気予防と植物の体力サポートの両面あり。

    40

    アミノ酸代謝阻害(新規機構)

    キノキサフェンなど

    新しいタイプで治療効果もあり。交互使用向き

    U群(U1, U6など)

    その他・分類不能

    バチルス菌由来の生物農薬など

    抵抗性リスクが低く、有機・環境配慮型の栽培でも使用可。


    🧾 FRACコードの確認方法
    • 農薬ラベルや製品説明書に「FRACコード:○○」と書いてあることが多いです。
    • 日本では「作用機作分類」「作用性コード」などと表記されている場合もあります。

     

    ▷ 感染初期なら“治療剤”で抑え込める場合も

    • べと病の発症初期であれば、治療効果をもつ薬剤(キノプロール系・ストロビルリン系など)で進行を止められるケースもあります

    • ただし、病斑が拡大している段階では根治は困難となるため、やはり“出る前の予防”が基本となります

    農薬防除は、最終的な保険のように考えるべき手段です。環境管理・草勢維持と組み合わせてはじめて、最大の効果が発揮されます。


    ④発病後の対策:被害拡大を最小限に抑える

    べと病は一度発症してしまうと、病斑が元に戻ることはありません。そのため発病後の対策は、「これ以上広げない」ことに尽きます。迅速で確実な対応が、圃場全体を守ることにつながります。

    ▷ 感染葉・感染株の“早期除去”が最優先

    • 病斑が確認された葉や株は、ただちに圃場から除去します

    • 感染した葉をそのまま残しておくと、風や雨水、作業者の手や道具を介して一気に広がる可能性があります

    除去方法の注意点:

    • その場に放置せず、圃場外へ搬出

    • ビニール袋に密閉 → 焼却または埋却が望ましい(家庭菜園レベルでも有効)

    • 作業後は手袋や器具の消毒も忘れずに

    ▷ 圃場全体への殺菌剤散布で“仕上げの抑え”

    • 被害箇所の除去後は、圃場全体への農薬散布で残存菌を叩くことが大切です

    • 見えていない感染初期の株も存在する可能性があるため、全域に対応する意識で散布しましょう

    ▷ 感染圃場の管理記録を残す

    • 一度べと病が発生した圃場は、翌年以降も再発リスクが高まるため、被害箇所・時期・対応策を記録しておくことが、次年度の防除計画に役立ちます

    ▷ 翌年に持ち越さない工夫も必要

    • 収穫後の圃場では、残渣(病気にかかった葉・茎)をすべて取り除くことが再発防止の第一歩

    • 耕起・天地返しにより、病原菌を地表から遠ざけるのも有効です

    • 土壌中に残った病原菌の越冬リスクに備えるため、輪作や太陽熱消毒も検討しましょう

    べと病の広がりは、“1株の油断”から始まります。感染拡大を最小限にとどめるために、「見つけたらすぐに動く」を合言葉に、初動対応を徹底しましょう。

    バイオスティミュラントの活用

    べと病は、弱った株ほど感染が進行しやすい傾向があります。
    そこで、作物の健康な状態を保つために、バイオスティミュラント資材の導入もおすすめです。

    バイオスティミュラントとは、植物そのものの生理機能を活性化させ、ストレス環境下でも健全な成育を保つために用いられる農業資材のことです。農薬のように病原体を直接攻撃するのではなく、植物の免疫力や代謝機能、根の活性や養分吸収能力を高めることに主眼が置かれています。

    たとえば、高温や乾燥、肥料ストレス、病気による一時的な草勢の低下などに対して、植物の自己回復力を後押しするのが、バイオスティミュラントの役割です。

    ■ Tecamin Max(テカミンマックス)

    Tecamin Maxは、アミノ酸を主成分としたバイオスティミュラントで、 植物の代謝を高めることで生育を促進します。特にストレス環境下においても植物の抗酸化酵素群の活性を高めることで、代謝を維持し生育をサポートします。

    特に以下のような場面で活用されています:

    • 長雨や曇天が続く中でも、草勢の維持・回復をサポート

    • 微量要素と併用し、根張りや光合成能力の向上に寄与

    • 農薬との混用が可能で、薬害の緩和や相乗効果も期待

    べと病の予防的なアプローチとして、「病気にかかりにくい株づくり」の一環として使用されています。アミノ酸による代謝促進や微量要素との併用による細胞構造の強化が、べと病に対する間接的な抵抗性向上を支援します。

    まとめ

    べと病は、「出てから対応」ではなく、「出る前に備える」病気です。
    湿気の多い時期や、草勢が不安定なときほど、見えないリスクが広がっています。

    • 日々の圃場の風通しと排水性を見直す

    • 発生しやすい作物を育てている場合は、特に注意

    • 必要に応じて農薬やバイオスティミュラントを活用し、病気に負けない環境と株づくりを進めましょう

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