植物の微量要素吸収・アミノ酸キレートとは? Vol.2(全4回)

チュートリアル 更新日:

 

当記事では、YouTubeチャンネル「味の素グループアミノ酸肥料ch」で公開されている動画「【科学的/徹底解説】Tecamin Maxとは何か?目から鱗の作用メカニズムが全てわかる!スペインのテクニシャンによる科学的見地からのハイレベル講義。基本のアミノ酸バイオスティミュラントを徹底解説」の内容をテキスト化してご案内しています。

 

前回の Vol.1では、キレート剤の基礎知識として名前の由来やキレート化するメカニズム、市場にあるキレート剤の種類、塩類との違いなどを科学的証拠に基づいて詳しく解説しました。

また、テクノケル製品でカルシウムに関連する「テクノケルアミノCab」や、微量要素配合の「テクノケルアミノMix」に関する基本情報も紹介しました。

Vol.2となる今回は、キレート剤としてのアミノ酸のポテンシャルに焦点をあて、専門家の意見を交えながらキレート剤の重要性とアミノ酸をキレート剤とする利点、アミノ酸キレートの活用方法について解説します。後半ではテクノケルアミノCabとテクノケルアミノMixの施用目的や施用方法について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

目次

    キレートの重要性とアミノ酸の利点

    植物が栄養素を吸収するためにはキレートの存在が重要とされ、特に天然のアミノ酸キレート剤に注目が集まっています。なぜアミノ酸でキレートする必要があるのか、専門家の講義をもとに、キレートの重要性とアミノ酸を利用する利点について解説します。

    M.アンヘレス・カスティーヨ教授によるアミノ酸キレートの重要性に関する説明

    アミノ酸キレートの重要性について、スペインにあるバレンシア工科大学に在籍しているカスティーヨ教授に講義していただきました。

    M.アンヘレス・カスティーヨ教授は、バレンシア工科大学のバイオテクノロジー学部で教鞭をとり、農業工学の副学部長も務めています。

    教授は講義のなかで、植物が栄養分を効率的に吸収し利用するためには、栄養分がどのような形状で供給されるかが極めて重要である、と述べていました。栄養分は水溶液の形でなければならず、キレート剤の使用が重要なポイントであるとしています。

    これまで科学界は、キレート剤として機能する新しい合成物質の開発をおこなってきました。しかし、自然界には既にキレート剤として働く物質が存在しています。その一例が、今回注目しているアミノ酸です。ご存じのとおり、アミノ酸は植物の栄養補給に欠かせないものです。

    さらに教授が強調しているのは、栄養素の生物学的利用能、すなわちバイオアベイラビリティが非常に重要であること、そしてキレート可能な栄養素はキレート形で提供すべきだという点です。科学界が多くの合成キレート剤を開発してきた一方、自然界ではアミノ酸をキレート剤として使用している可能性があるとも述べています。

    栄養素の植物全体への吸収率を向上させるには、自然界でキレート剤の役割を担っているアミノ酸によりキレート化し、液状で供給するのが望ましい、としています。

    自然界のキレート剤であるアミノ酸を活用する利点

    ここでは、アミノ酸を活用する利点について解説します。合成キレート剤ではなく、アミノ酸キレート剤を活用する利点はいくつか考えられます。そのなかで、今回は3つの利点に絞ってみました。

    1. 結合の強度
    2. 環境への影響
    3. 植物への安全性

    この3つの利点に注目し、天然のキレート剤と合成されたキレート剤にはどのような違いがあるのか比較してみましょう。

    Vol.1でも少し触れましたが、改めて自然界にあるアミノ酸と、有機酸の天然キレート剤、化学的に作られた合成キレート剤を多方面から比較していきます。

    合成キレート剤との比較➀結合の強度

    1つ目の利点は、アミノ酸と栄養素との結合強度です。強度はキレート剤の特徴を見るうえで重視すべきポイントとなります。天然のアミノ酸キレート剤と有機酸キレート剤、合成キレート剤の3種類のキレート剤から、さらに数種類のキレート剤を選び、各栄養素との結合強度を比較してみました。

    数値が高ければ高いほど栄養素を掴む強さ、つまり結合強度の高さを表しています。上の表から一部の栄養素の数値を抜粋し、下の表にまとめました。まずは、天然キレート剤であるアミノ酸と有機酸キレート剤に注目しましょう。

    製品名 天然キレート剤 合成キレート剤
    栄養素 アミノ酸キレート剤
    (グリシン)
    アミノ酸キレート剤
    (グルタミン酸)
    有機酸キレート剤
    (クエン酸)
    EDTA
    カルシウム 1.4 2.1 4.7 10.6
    4.3 4.6 5.7 14.3
    亜鉛 5.4 5.8 6.1 16.5

    たとえば、カルシウムの強度だとグリシンが1.4、グルタミン酸はもう少し強度が強い2.1です。鉄の場合だと4.3と4.6、亜鉛だと5.4と5.8と、やはりグルタミン酸の方が高めの数値となりました。有機酸であるクエン酸になるとアミノ酸よりも全体的に強度が高く、より強く捉えているのが理解できます。

    では、アミノ酸キレート剤と合成キレート剤で比較してみましょう。カルシウムではアミノ酸であるグリシンの強度が1.4なのに対し、合成キレート剤であるEDTAは10.6とかなり強度が高く、大きな差があることがわかります。一見、グリシンの数値はクエン酸やEDTAよりも低いため、うまくキレートされないのでは、と考えるかもしれません。しかし、強度が高い=優れている、とはならないのです。実際にカルシウムはグリシンのような低い結合強度でも、細胞は無理なく栄養素を取り込めます。

    対して、EDTAはどうでしょうか。数値がアミノ酸の約10倍以上とかなりの強度です。鉄も同じように、EDTAの方が高い数値を示しています。強度が高い分には問題ないように思いますが、この程度の強度になると、細胞とキレート剤との間で栄養素の競合が起こってしまいます。キレート剤から栄養素を奪い取って吸収するために、細胞は大きなエネルギーを使って戦わなければならないのです。細胞に効率よく吸収させるのが目的のキレート剤として考えると、アミノ酸キレートの方が吸収されやすいため、理にかなっているといえます。

    そのため、このような強度が高い合成キレート剤は、細胞と競合しにくい土壌への散布に適しています。葉面散布だと細胞と競合により栄養素の吸収率が下がりますが、土壌散布だと他の物質との相互作用が多く働くため、強度が高いと根からの栄養が吸収しやすいと考えられるからです。

    以上の結果から、キレート剤の効果を高めるには、施用するキレート剤の強度によって散布方法を使いわけるのが望ましく、葉面散布にはアミノ酸キレート剤が適しているといえます。

    注:キレート剤の選択においては、結合強度が重要な要素の一つであることは間違いありません。低い結合強度を持つアミノ酸キレート剤は、細胞が栄養素をより簡単に吸収できるようにすることで、特に要面散布において、効率的な栄養供給をサポートします。しかしながら、すべての状況で低結合強度が最適とは限りません。実際には、土壌のpHや他の化学的条件など、栽培環境によってはより強い結合を持つキレート剤が栄養素の植物への利用可能性を高める場合もあります。このため、植物の健全な成長と生産性を最大化するためには、どの様な条件、環境下で使用するのかを考慮に入れてキレート剤を選択することが重要です。

    合成キレート剤との比較②環境への影響

    2つ目の利点は環境への影響です。キレート剤となるアミノ酸は合成キレート剤とは違い、元から自然界に存在している栄養素です。そもそも自然界では、アミノ酸はさまざまな植物のエネルギー源として代謝活動に利用されるほか、キレート剤としての役割を担っている要素でもあります。そのため、植物で合成されて体内に存在したり、土壌にも存在したりしています。そこにアミノ酸キレート剤を散布しても既に存在している成分のため、環境への良い影響はあれど悪い影響はありません。

    アミノ酸キレート材製品の作用は、自然界でのアミノ酸の役割と何ら変わらないのです。自然界に存在しているアミノ酸キレートをさらにプラスしているのであって、基本的には自然界で起きている成長プロセスと同様です。

    したがって、土壌に大きな影響を及ぼさず、環境にも優しいといった点がアミノ酸キレート材の利点となります。

    合成キレート剤との比較③植物への安全性

    利点の3つ目は、植物への安全性の高さが挙げられます。環境への影響でも触れましたが、そもそもアミノ酸は自然界に存在する必要不可欠な栄養素です。植物にとって安全な成分であり、栄養吸収をサポートしてくれる重要な存在です。植物が光合成や根からの吸収により自らアミノ酸を合成し、成長するためのエネルギーとして活用しています。

    そのため、アミノ酸キレート剤の方が植物にとっては、なじみのある安心できる成分なのです。むしろ、アミノ酸にキレート化された栄養素と同様、各器官に運ばれて成長エネルギーとして機能することを考えれば、より成長促進の効果も望めます。

    注:合成キレート剤とアミノ酸キレート剤は、それぞれ独自の利点と使用状況があります。合成キレート剤は高い結合強度を持ち、特定の環境や土壌条件下では栄養素の利用効率を高めることができます。一方で、アミノ酸キレート剤は環境にやさしく、植物にとって自然な形で栄養素を提供するため、特に葉面散布ではより適しています。重要なのは、使用するキレート剤を選択する際には、その土壌の特性、植物のニーズ、環境への影響を総合的に考慮することです。このように、農業実践においては、それぞれのキレート剤の利点を理解し、目的に応じて最適な選択を行うことが重要です。

    アミノ酸キレート剤の活用

    ここからは、アミノ酸キレート剤の活用について解説します。

    アミノ酸キレートによる栄養吸収は、自然界では当然のようにおこなわれているものです。栽培している植物に限らず、自生している植物も土壌から微量要素を吸収するためにアミノ酸キレートを活用し、成長に役立てています。

    アミノ酸キレート剤製品による、葉面散布の効果も世界中で確認されています。アミノ酸キレート剤の散布によって、果実の裂果や尻腐れ病の改善や葉の変色や歪みが消えたなど、さまざまな効果が表れています。このような効果を効率よく得るためには、植物の栄養状態を見極め、適切な時期に適切な量を散布することが大切です。施用する製品によって散布のタイミングや必要量、散布方法が異なりますので、症状をよくみて適切なアミノ酸キレート剤製品を選ぶのが、最大限の効果を得るポイントです。

    テクノケル製品におけるアミノ酸キレートの利用

    テクノケル製品のなかでは「テクノケルアミノCaB」と「テクノケルアミノMix」の2つがアミノ酸のキレート剤を利用しているバイオスティミュラントとなります。この2つの製品について、効果や利用方法など詳しく解説します。

    テクノケルアミノCaB

    テクノケルアミノCaBは、カルシウムとホウ素の供給を目的とするバイオスティミュラント製品です。アミノ酸キレート剤を活用したカルシウムやホウ素の補給により、カルシウム欠乏症による品質や収量低下から植物を保護します。

    植物から水分を除くと、細胞壁は植物全体の重量の約80%〜85%を占めており、植物にとって重要な組織です。そして細胞壁を構成するためには、カルシウムとホウ素は欠かせない栄養素です。カルシウムは細胞壁の中心となる要素として、ホウ素は細胞同士の架け橋として機能します。どちらの栄養素も、細胞壁の主成分となるセルロースと接着剤の役目をするペクチンを結合させ、強固な細胞壁を生成するために必要不可欠な存在です。

    たとえばカルシウムが不足すれば、細胞壁が脆くなったり成長が妨げられたりする可能性があります。特に果実の着果時期はカルシウム欠乏が起こりやすく、尻腐れ病や裂果など、果実の成長に大きく影響します。したがって、植物が健全に成長するためには豊富なカルシウムの供給が必須なのです。

    その点、テクノケルアミノCaBはアミノ酸でキレート化しているため、効率的にカルシウムを補給するのに最適な製品といえます。アミノ酸のキレートの特徴を活かしたバイオスティミュラントのため、必要なタイミングで散布すれば素早く植物内にカルシウムやホウ素が浸透します。

    カルシウムは着果初期となる細胞分裂期〜細胞肥大期の初期に多く使われるため、その時期に葉面散布するのが最適です。1回目は初期の細胞分裂期に、2回目は細胞肥大機の初期に、と2度施用するのが望ましいでしょう。カルシウム欠乏による品質低下や収量減少を防ぎ、植物の成長促進効果が期待できます。

    テクノケルアミノMix

    テクノケルアミノMixは、さまざまな微量要素を配合した液状のバイオスティミュラント製品です。天然のアミノ酸キレート剤を活用し、ミネラルを含む微量要素を効率よく吸収させます。微量要素とは、植物が成長するうえで欠かせない栄養素のうち、ごく微量を必要とするものを指します。

    テクノケルアミノMixに配合される微量要素は次のとおりです。

    • マンガン
    • 亜鉛
    • ホウ素
    • モリブデン

    どれも必要量が微量とはいえ、それぞれが重要な役割を果たしており、成長するには必須な栄養素です。成長段階で不足すると光合成や葉緑素の合成、葉の変色や変形など、さまざまな症状を引き起こします。成長と微量栄養素濃度について、こちらのグラフをご覧ください。

    グラフを見ると、栄養素濃度が濃くなるにつれ、植物の成長や収量も高くなっています。つまり、植物に栄養が供給されればされるほど、または植物が利用できる栄養素が多ければ多いほど植物は成長し、収量も増加するのです。グラフ左側の赤いゾーンのように、症状が見てわかるレベルの欠乏症になってしまっては、本来期待できる最大収量には到底及ばないでしょう。

    そのため、栄養不足にならないよう十分な量の微量要素を補う必要があります。アミノ酸キレート剤であれば栄養素を素早く吸収する効果が期待できるため、定期的な補給で微量要素の不足による欠乏症も防げます。

    テクノケルアミノMixの主な施用目的は、植物のストレス耐性の向上です。植物が成長プロセスで受ける高温ストレスや乾燥ストレスといった環境ストレスや、栄養成分の欠乏による影響を受けにくい植物になるよう、生育をサポートします。

    テクノケルアミノMixの施用方法は葉面散布です。植物が育つ土壌では複数の肥料成分が相互に関係してしまい、必要な微量成分が植物に十分に供給されないケースがあります。そうなれば植物は栄養不足となり、枯れや葉の黄化といった症状が表れ、健康維持に支障をきたします。たとえ見た目には顕著な症状がでなくても、先ほどのグラフでいう隠れた飢餓ゾーンがあったように、実は植物内では栄養不足状態であるといった場合もあるのです。

    その点、葉面散布では他の物質に邪魔される可能性が低いため、必要量の微量要素が細胞内に吸収され植物全体に蓄積されます。実際に、葉が黄化し小さいままだった桃にテクノケルアミノMixを葉面散布したところ、葉は大きく成長しツヤのある濃い緑色になるまで改善した事例もありました。アミノ酸キレートの活用で微量要素が効果的に機能することにより、代謝活動が活発になりストレスの影響を受けにくくなり、さらなる成長促進に繋がるのです。

    まとめ

    Vol.2の今回は、キレート剤としてのアミノ酸に注目し、専門家の意見をふまえてキレート剤の重要性とアミノ酸をキレート剤とする利点、アミノ酸キレートの活用方法、テクノケルアミノCabとテクノケルアミノMixの施用目的や施用方法について解説しました。

    アミノ酸は自然界でキレート剤の役割を果たすものであり、キレート剤として葉面散布に適している栄養成分です。アミノ酸キレート剤を施用する利点として、結合強度が強すぎないことによる細胞への吸収率の良さ、自然界と同じメカニズムで環境への影響が少なさ、植物の成長に必要不可欠な栄養素がゆえの安全性の高さが挙げられます。その他の利点も含め総合的にみても、合成キレート剤よりアミノ酸キレート剤を推奨する要素が多くあります。

    次回Vol.3では、キレート化のメカニズムをひも解いていきます。アミノ酸が金属イオンをキレートするプロセスやアミノ酸キレートが植物に与える影響、土壌散布と葉面散布の栄養吸収の違いなど、さらに詳しく解説します。

     

    次回のVol.3のリンクはこちら↓

    植物の微量要素吸収・アミノ酸キレートとは? Vol.3(全4回) (agritecno-japan.com)

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    植物の微量要素吸収・アミノ酸キレートとは? Vol.1(全4回) (agritecno-japan.com)

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