
当記事では、YouTubeチャンネル「味の素グループアミノ酸肥料ch」で公開されている動画「【科学的/徹底解説】Tecamin Flowerにはどういった効果があるのか?農業技術の専門家が科学的に解説します」の内容をテキスト化してご案内しています。
今回から新シリーズとして全3回にわたり、味の素グループで扱っているテカミンフラワーに関する解説をしていきます。
テカミンフラワーの含有成分や施用目的、施用方法や利点といった製品情報を中心に、テカミンフラワーの効果が特にあらわれる花芽と果実について、わかりやすくお伝えします。 植物を栽培、収穫するうえで役立つ情報ですので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
バイオスティミュラントの役割と生態系への貢献
はじめにテカミンフラワーを紹介する前に、先にバイオスティミュラントについて簡単に解説します。
テカミンフラワーとは、花芽と果実への効果に特化したバイオスティミュラント製品です。近年、世界中で施用されるようになったバイオスティミュラントは製品によって施用方法や得られる効果は様々で、実に多種多様です。バイオスティミュラントは農薬や肥料といった従来の農業資材との違いや植物に対してどのように影響するのか、バイオスティミュラントの存在意義をみていきましょう。
バイオスティミュラントの定義と目的
バイオスティミュラントとは何か、基本的な部分から解説します。
バイオスティミュラントとは、植物の生育に作用し成長をサポートする農業資材です。栽培環境で起こる様々なストレスからの保護やストレス症状の改善など、植物の生理プロセスに貢献し、植物が健康に育つことを目的に開発されました。安定的な品質、収穫を具現化する農業資材として世界中で注目されています。
従来、施用されている農薬や肥料と混同されることもありますが、どちらとも施用目的が異なるため、まったく別の農業資材に分類されます。
バイオスティミュラントの主な施用効果は、次のとおりです。
- 環境ストレス耐性の強化、回復
- 栄養素吸収の促進
- 植物全体の成長促進
- 水分バランスの調整
- 土壌環境を整える
植物がストレスによりダメージを受ける原因には2種類あります。生物ストレスと非生物ストレスです。バイオスティミュラントは、非生物ストレスに対応し、植物がダメージを受けないよう、またはダメージから回復させ収量減少を食い止める役割を担っています。
本来、植物は遺伝により、種の段階から既に最大収量が決まっています。しかし、種から発芽し収穫時まで成長していく過程で天候や害虫、乾燥、雨、気温など様々なストレスに襲われます。それにより、植物ダメージを受けてしまい健康を損ない、結果的に本来の最大収量より減少してしまうのです。
そこで効果を発揮するのがバイオスティミュラントです。
バイオスティミュラントを施用することで根の発育やそれに伴う栄養吸収、光合成など成長プロセスが活性化され、非生物的なストレスへの対応が持続可能となりました。現在では植物の生命力を引き出す重要な農業資材として、広く普及しています。
またその他の施用効果は次のようにして発揮されます。バイオスティミュラントは、植物の栄養素吸収を促進することにより、根からの水分とミネラルの取り込みを改善します。これにより、植物は乾燥などの環境ストレスに対してより強い耐性を持つようになります。
また、バイオスティミュラントに含まれる特定の成分が、植物の細胞での代謝活動を刺激し、成長促進ホルモンの合成を促進することで全体の成長が加速されます。さらに、土壌環境の改善にも寄与し、土壌中の有益な微生物の活動を活性化し、根圏を最適化して、植物の健康をサポートします。
バイオスティミュラントについては別の記事でさらに詳しく解説していますので、ぜひそちらも一緒にご確認ください。
バイオスティミュラントの特徴と具体的な効果について|味の素グループアミノ酸肥料オンライン販売
生態系への影響
バイオスティミュラントには目的別に多くの種類があり、なかには土壌環境を調整する効果をもつ製品も存在します。たとえば、土壌内にいる有益な微生物を活性化させたり有機物の分解や害虫、病原菌を抑制したりと土壌環境の改善を目的とした製品です。それにより、植物にとって良好な栽培環境となり、成長促進が期待できます。
土壌環境が良好であることは、植物成長において極めて重要です。多くの植物が土壌中の栄養素や水分を根から吸収し、成長活動のために活用します。その際、土壌の健康状態が良好で整っていれば根の発達や栄養吸収が促進され、植物のストレス耐性向上や健全な生育へと繋がります。
農薬や肥料と併用しつつ、植物の栽培環境や健康状態に合わせたバイオスティミュラントの活用を推奨します。
テカミンフラワーがなぜ特別なのか。ユニークな成分と効果の紹介

次にテカミンフラワーについて解説しましょう。テカミンフラワーとは、先ほど解説したバイオスティミュラント製品のひとつです。数ある味の素グループのバイオスティミュラント製品のうち、スペシャリティ製品として位置付けています。
テカミンフラワーは主に花芽や果実の成長促進に特化しており、植物の花芽の充実や着果のサポートを目的として施用します。
テカミンフラワーの成分や効果について詳しくみていきましょう。
テカミンフラワー特長的な成分
テカミンフラワーの特徴として挙げられるのは、微量要素であるモリブデンとホウ素です。
ゆえに花芽と果実への効果に特化し、成長促進するために重要な役割を果たします。各栄養素の役割は以下の通りです。
- モリブデン:花粉の発芽を促進
- ホウ素:花粉管の成長を促進
さらにテカミンフラワーには遊離L型アミノ酸を始め、ポリアミンや有機酸、ビタミンなどが配合されているほか、保証成分として、以下の三大栄養素も含まれています。
- 窒素
- りん酸
- 加里(カリウム)
どの栄養素も、植物の健康状態を良くするのはもちろんのこと、成長するための材料として欠かせません。それほど重要かつ必要不可欠な栄養素が、テカミンフラワーには何種類もブレンドされているのです。この特性により、テカミンフラワーは他のバイオスティミュラント製品とはまた別のスペシャリティ製品として活躍しています。
テカミンフラワーの効果
テカミンフラワーを施用した際の具体的な効果は、以下のとおりです。
- 花芽の充実
- 高温時のストレスによる着花不良や落花の予防
- 着果率の向上
- 栄養による成長から生殖成長への切替の促進
テカミンフラワーに含まれる豊富な成分により、花芽や果実を中心に高い成長効果が期待できます。テカミンフラワーに含まれるモリブデンやホウ素は少量だけ必要とされる微量要素であるものの、なくてはならない重要な栄養素です。これらの栄養素すべてが花芽の成長に関与しているため、テカミンフラワーでの補給により大きな影響を与えるのです。
特に開花時期においては、モリブデンは花粉の発芽を促進し、一方、ホウ素は花粉の形成や種子の発育を助ける役割を果たします。これらのミクロ栄養素の働きにより、テカミンフラワーは花芽の充実と果実の質の向上に寄与するのです。
成分の重要性
バイオスティミュラントには、目指す効果によって様々な栄養素がブレンドされています。よって、植物の生育状況や施用目的に合わせて栄養素の選択が必要です。テカミンフラワーにも植物の健全な成長を促す成分が豊富に入っていますので、どのような成分が配合されているのか見ていきましょう。
テカミンフラワーの主要成分と植物成長への寄与
テカミンフラワーに含まれている成分を次の表にまとめました。
主要成分 | 遊離L型アミノ酸3% 糖類 ポリアミン 有機酸 ビタミン |
---|---|
保証成分 | 窒素全量:2.8% リン酸全量:9.0%(内、水溶性リン酸:8.0%) 加里全量:1.0%(内、水溶性加里:1.0%) 水溶性ホウ素:3.0% |
その他成分 | モリブデン:0.5% |
主要成分の他に、効果を保証する成分として三大栄養素(窒素、リン酸、加里=カリウム)やホウ素、そしてモリブデンが含まれています。これらの栄養成分が植物成長にどのように影響するのか、各栄養素について詳しく理解していきましょう。
成分の詳細
テカミンフラワーに配合されている栄養素には、それぞれ植物成長に対して重要な役割があります。ここでは、植物が生きていくために必要な栄養素である三大栄養素、テカミンフラワーの特徴でもあるモリブデンの役割を抜粋して解説します。
1、窒素
窒素は植物自体を形成する三大栄養素のひとつです。植物成長では必須となる光合成や細胞など、実に様々な生育プロセスに関与しています。光合成に必要なクロロフィルや、酵素や細胞を構成するタンパク質を生合成には窒素が必要不可欠です。窒素が不足すれば、植物が不健康になったり生殖活動が抑制されたりする可能性があります。
植物が健康に生きていくためには必須な栄養素なのです。
2、リン酸
リン酸も植物を構成する主要な栄養素のひとつであり、遺伝情報を伝達するDNAや細胞膜の構成に不可欠な栄養素です。微量要素の中でも重要な役割をもつ栄養素で、植物内でのエネルギー生産に深く関わっています。それにより開花や着果、根の成長を促進させる効果をもたらします。
3、加里(カリウム)
カルシウムもまた、成長するために必要なエネルギー生産に欠かせない栄養素です。エネルギーを生み出すために必要な酵素を活性化させたり、気孔による呼吸をコントロールし光合成を促進したりと生理プロセスに大きく影響を与えています。カリウムを植物に与えることで、特に根回りの健康維持と成長促進に貢献します。
バランスの重要性
テカミンフラワーにはこれまで解説した成分を含めて、多種多様な栄養素がバランスよく含まれています。植物が健全に成長するために、品質を高めて最大収量を確保するためには植物の栄養吸収バランスが重要です。
植物に栄養素が必要不可欠だからといって、適当に与えればいいというものではありません。栄養素を与えすぎると栄養過多となり、逆に植物に毒となる可能性があります。また特定の栄養素だけを供給するのも、植物の栄養バランスが崩れて健康状態を損なう場合も考えられます。
植物の成長促進、ストレス耐性の向上と健康維持のためには、テカミンフラワーのような栄養バランスの優れたバイオスティミュラントが適切なのです。
pH値と酸性環境が植物の呼吸に与える影響
ここで少し土壌のpH値にも触れておきましょう。植物の成長には栄養素だけではなく、土壌中のpH値も重要となります。
pH値とは0から14の数字で水素イオンの濃度を示す値であり、以下のように表します。
- 酸性:0〜6
- 中性:6〜8
- アルカリ性:8〜14
つまり、数値が低いほど酸性度が強く、また数値が高いほどアルカリ性度が強いという認識です。そして土壌のpH値は植物の栄養吸収において重要な数値であり、成長作用に大きく影響します。
ではpH値と植物の関係性について解説していきます。
pH値の役割
土壌中のpH値は、植物の栄養吸収の面で大きく関係する数値です。植物は通常、土壌中の栄養素を根から吸収しますが、土壌のpH値が適切な数値から外れていると根が栄養素を吸収しにくくなったり過剰に吸収したり、栄養吸収バランスが乱れてしまいます。結果、正常な栄養吸収が困難となり、成長活動に支障をきたしてしまうのです。そのため、数値がどちらかに偏りすぎることなく、適切な範囲内となるよう管理する必要があります。
テカミンフラワーのpH値も、2〜3と酸性よりの数値になっています。これにより、テカミンフラワーに配合されている成分を植物が吸収しやすくなり、成長活動へと役立てられるのです。特に、このpH値が栄養素の可溶性にどのように影響するかを考えると、酸性の条件下では特にミクロ栄養素である鉄、マンガン、銅、亜鉛等の可溶性が高くなります。これにより、テカミンフラワーに含まれるこれらのミネラルが植物により容易に吸収され、成長促進や健康維持に寄与します。」
酸性環境の効果
一般的に、植物は弱酸性の土壌を好みます。もちろん、植物によって適切なpH値の範囲は異なり、なかには弱アルカリ性の土壌環境を最適とする植物も存在しますが、おおむね弱酸性の土壌で健全に成長する傾向にあります。
土壌が酸性環境の場合、メリットとなるのは微生物の活性化と栄養吸収のしやすさです。微生物の働きにより、土壌中に含まれるモリブデンや鉄といった微量要素が溶け出しやすくなり、根からの吸収が容易になります。微量要素は呼吸や光合成といった成長プロセスに貢献する重要な栄養素であることから、根の発達をはじめとする成長活動の促進といった効果が期待できます。
テカミンフラワーの多面的な利点
これまで解説したように、テカミンフラワーには植物の成長にはなくてならない三大栄養素やモリブデン、ホウ素といった重要な微量要素が豊富に含まれています。さらに、植物にとって有益となる成分が配合されており、より多方面から成長促進へのサポートが可能となっています。
そしてテカミンフラワーの豊富な栄養素が担う役割を最適化するには、施用するタイミングが重要なポイントです。
では、テカミンフラワーをいつ、どのように施用するのが最適なのか詳細をみていきましょう。
有益な成分の紹介
テカミンフラワーには先ほど解説した栄養成分以外に、有益な成分としてアミノ酸と多糖類、ポリアミンが含まれています。この3つの成分も、それぞれ植物の成長に影響を与えるものです
では、アミノ酸と多糖類、ポリアミンが植物にどのような影響を与えるのか、各成分について解説します。
アミノ酸の役割
アミノ酸の役割とはタンパク質の合成です。アミノ酸はタンパク質の主要構成要素として光合成のなかでタンパク質を合成し、植物がおこなう様々な成長プロセスへと貢献しています。
人間や動物であれば食事など外からタンパク質を摂取しますが、植物は自らの体内でタンパク質を合成します。そのためには、タンパク質の要素となるアミノ酸の吸収が必須となるのです。
また、アミノ酸には栄養吸収をサポートする機能があります。ほかの栄養素を植物が吸収しやすいようにサポートし、吸収効果を高めるような働きをします。
つまり、アミノ酸は一つの栄養素として植物の成長活動のために貢献する役割と、ほかの栄養素の吸収と効果を高めるサポート役となる両方の役割を担っているのです。
多糖類とポリアミン
テカミンフラワーには、多糖類とポリアミンが配合されています。どちらも植物の成長を促し、様々なストレス耐性を向上させる作用があります。
多糖類とは、単一の糖類が複数連なって形成された糖類のことです。
植物における細胞内や細胞壁、細胞膜などの形成や成長エネルギーとして役立ちます。たとえばデンプンやペクチン、グリコーゲン、セルロース、キサンタンガムなどが該当します。
多糖類 | 役割 |
---|---|
デンプン | 植物の成長エネルギー源。発芽や茎の伸長などに貢献 |
ペクチン | 細胞壁の構成要素。セルロースを接着する |
グリコーゲン | 葉緑体に蓄えられ、光合成やエネルギー源として利用 |
セルロース | 細胞壁の骨組みとなる主要構成要素。植物の形成と強度を与える |
ガラクトマンナン | デンプンと同様に、成長エネルギー源として果実や種子に多く含まれる |
ポリアミンもアミノ酸や多糖類と同じように、植物成長の促進作用をもつ化合物です。
細胞分裂など植物の生育プロセスに深く関わっており、高温や低音といった気温のストレスや乾燥、塩分などの多くのストレス耐性を向上させたり、害虫などの外的要因から保護したりと、植物の健全な成長に貢献しています。
またポリアミンの活動により、光合成や栄養吸収の生産性も向上させる効果があります。
アミノ酸や多糖類のような栄養素ではありませんが、適切に使用することで栄養素に似た役割を担っているのです。
開花のプロセスへの影響、特に開花の初期段階での重要性
ではここからは、植物の開花プロセスについて着目します。テカミンフラワーは花芽に成長促進効果を与えるバイオスティミュラントであるため、開花についてあらかじめ理解しておく必要があります。
テカミンフラワーを有効に活用するために、開花を促進するメカニズムについて解説していきましょう。
開花の初期段階の重要性
テカミンフラワーは開花プロセスのうち、着蕾期と開花期の初期段階での施用が効果的です。
一般的に開花プロセスは、以下のように大きく分けて3つの期間となります。
- 植物内で蕾が形成される着蕾期
- 花芽が成長する形成期
- 花が咲く開花期
テカミンフラワーには花芽の成長を促進させる成分が配合されているため、開花の準備期間でもある初期段階での施用が重要となるのです。
開花促進のメカニズム
適切な時期にテカミンフラワーを施用することで、開花を促進させることが可能です。テカミンフラワーに含まれている成分が植物ホルモンであるフロリゲンを誘発させるからです。
植物の開花促進には炭水化物、光周期、そして植物ホルモンのバランスが鍵となります。
テカミンフラワーを施用することにより、フロリゲンの誘導体の合成を促進します。植物ホルモンとは開花調整に重要となるホルモンです。テカミンフラワーの栄養成分で合成された誘導体によりフロリゲンの合成が促進し活性化すれば、花芽の形成や花数の増加、花の品質向上などプラスの効果を発揮し、開花促進へと繋がります。
まとめ
今回は、味の素グループで扱っているバイオスティミュラント製品「テカミンフラワー」について解説しました。テカミンフラワーは多種多様なバイオスティミュラントのなかでも、花芽や果実への効果に特化した製品です。
植物の健全な生育に必須な三大栄養素を始め、成長活動に必要な様々な栄養素がバランスよく配合されています。特にホウ素やモリブデンといった、花芽の成長を促す成分を配合しているのが特徴です。開花プロセスの初期段階となる着蕾期に施用することで、花数の増加や花落ちの抑制、花芽の成長促進、品質向上などの効果が期待できます。
テカミンフラワーを効果的に施用するには、まずは植物の開花プロセスを知ることが重要です。
そこで次回は開花プロセスに焦点を当てて解説します。開花プロセスの全容や開花のメカニズムなどを解き明かしていきますので、植物の開花について理解を深めていきましょう。
【次回Vol.2のリンクはこちら ↓ 】
花芽の充実と果実の質を高めるテカミンフラワーの科学 Vol.2(全3回) (agritecno-japan.com)